環太平洋の深煎りの招待状は

昨今の焙煎の流行りでいえば、
アフリカ圏の華やかな浅煎りが人気になっていますが、
個人的には、その真逆にある
環太平洋エリアの深煎りもずっと好きでいます。

産地や銘柄に興味を持ち始めたきっかけも、
このあたりの深煎りから。

シアトル発、セイレーンのロゴが印象的な
あのコーヒーショップ(そこまで言うなら店名を出しても…)で
働いていた友人が、
コナコーヒーやスマトラを勧めてくれたのがきっかけでした。

わたしたちの深煎りラインナップである
Journey Withinは、
インドネシア・スマトラ島産のマンデリンを使用しています。

赤道直下の湿った空気。
火山性の土壌。
そして、スマトラ式(ウェットハル)と呼ばれる
少し特殊な精製方法。

豆は水分を多く含んだ状態で外皮を剥がされ、
ゆっくりと乾いていきます。
その工程が、
マンデリン特有のアーシーさや
重心の低い味わいに輪郭を与えているように感じます。

しっかりと重たい味わいのそのコーヒーは、
その一杯と過ごす時間の濃度を
静かに引き上げてくれます。

食事を終えた夜。
今日はもう少し夜更かししてしまおうか、
そんな高揚感とともに、
深煎りのコーヒーとビターなチョコレート。

すぐに物語へ入り込める本ではなく、
少し腰を据える覚悟が必要な一冊。
ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』や、
ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』のような海外文学を、
ゆっくりと読み始める時間。

ページをめくるたびに、
言葉の密度と時間の流れが変わっていく。
そのかんぬきを外すような役目を、
このコーヒーが担ってくれる気がしています。

ロースターとしては、
ラテに使うのもおすすめしたいところです。
マンデリンのアーシーな骨格が、
ミルクの濃厚さをどしっと受け止めてくれる。
そんなオセアニアの懐の深さを、
このフレーバーに感じています。

逆に何も足さない素のエスプレッソには
ちょっと暴れすぎるかな…
というのが送り手の正直な感想。
豆のポテンシャルの全てをまっすぐ受け止める覚悟、
ショットグラスでテキーラをあおる時の
あの心づもりでお試しあれ。
そう、くれぐれもご寛大に…。
(こう書くと逆に試したくなる人もいますよね笑)

また、食事にメルローやシラーズのような
丸みのある赤ワインを合わせたあと、
少し酔いが残るなかで、
コーヒーでもう少し夜の時間を楽しむ。
個人的にはそんなシーンもお気に入りです。

外へ飛び出すことも、旅。
そして、内側へと思索を深めていくことも、
またひとつの旅です。

心の重心が、
少しだけ深く沈んでいくような感覚。

Journey Withinは、
そんな時間に寄り添うための一杯。

どうぞ、夜の静けさとともに
お楽しみください。

text by Masuda (Silent Field Coffee – Roaster / Director)